
エベレストの遺体一覧|回収されない遭難者とその理由を解説
エベレストには、長年にわたる登山で亡くなった人の遺体が残されています。なかでも「Green Boots(グリーン・ブーツ)」や「Sleeping Beauty(眠れる美女)」と呼ばれた遺体は、登山史の中で広く知られてきました。
先に結論をいうと、エベレストの遺体について、現在地・身元・回収状況を網羅した固定的な公開一覧はありません。死亡記録をまとめた資料と、遺体が今どこにあるかという情報は別であり、雪や氷、風、雪崩、回収作業によって状況も変わります。
この記事では、確認できる代表例を「現地に残ると報じられている例」「主ルートから移された例」「発見された例」に分け、なぜ回収が難しいのかを整理します。遺体の位置や身元に関する情報は、資料の基準日を確認しながら読んでください。
※画像は特定の遭難者や事故現場を再現したものではなく、高所の山岳環境を表すイメージです。
エベレストの遺体一覧を調べる前に知っておきたいこと
エベレストの遭難者数を調べるときは、まず何を数えているのかを確認する必要があります。登山隊の死亡記録、行方不明者、遺体が発見された人、遺体が回収された人は、同じ数字になるとは限りません。
Himalayan Database Onlineは、エベレストを含むヒマラヤの登山・隊員・死亡記録を検索できる資料です。サイトには「Peak Deaths」などの検索機能がありますが、死亡記録のデータベースであって、山上の遺体を現在地付きで網羅した地図ではありません。
また、同サイトが示すオンラインデータの更新時点は、閲覧時に確認する必要があります。過去の集計をそのまま2026年9月時点の完全な遺体数と見なしたり、古い記事の位置情報を現在も正しいと考えたりするのは避けましょう。
エベレストで知られる遺体一覧
ここでは、報道や登山史資料で繰り返し取り上げられる代表例を紹介します。すべての遭難者を網羅した一覧ではなく、現状の表現も「公式に確認されたこと」と「長く伝えられてきたこと」を分けています。
| 呼び名・人物 | 遭難時期 | 現在の扱い | 確認しておきたい点 |
|---|---|---|---|
| Green Boots (2026年資料ではDorje Morup) |
1996年 | 長く北側ルートの目印とされ、2026年に回収業務の調達情報が掲載された | 従来はTsewang Paljorの遺体という説が広く知られていたが、2026年のインド政府資料ではDorje Morupと記載されている |
| Francys Arsentiev (Sleeping Beauty) |
1998年 | 長く登山ルートから見える場所にあったが、2007年に主なルートから移されたと報じられている | 登山者の目に触れにくくするための移動であり、遺体が家族のもとへ搬送されたことを意味しない |
| Hannelore Schmatz | 1979年 | 南側ルートで長く知られた歴史的な事例 | 1984年に回収を試みたネパール人2人が死亡し、現在の正確な所在は公開資料だけでは一意に確認しにくい |
| George Mallory | 1924年 | 1999年の捜索で遺体が発見された | 「遺体が発見された例」であり、現在の遺体の扱いまで、発見記録だけで判断しない |
このほかにも、身元が確認されていない遺体や、雪・氷に覆われて位置が分からなくなった遺体があります。2024年にはネパール軍がエベレスト地域の清掃活動で2体を回収し、法医学研究所へ引き渡したと報じられました。エベレスト、ローツェ、ヌプツェを対象にした活動だったため、報告された数をエベレスト単独の遺体数と混同しないことも大切です。
Green Bootsの正体と現在の回収状況
Green Bootsは固有名ではなく、鮮やかな緑色の登山靴が見えたことから付いた呼び名です。長年、1996年の遭難者Tsewang Paljorの遺体だと説明されることが多くありました。しかし、2026年のインド政府の調達資料には、回収対象を「Late Dorje Morup Green Boot」とする業務名が掲載されています。
Associated Pressの2026年報道も、インド当局がGreen BootsをDorje Morupの遺体と考え、高所回収の専門家を手配しようとしていると伝えています。つまり、古い資料にあるPaljor説と、2026年の資料にあるMorupの記載は、同じ確度の情報として混ぜない方が安全です。
インド政府の調達ページには、2026年6月から9月に行う回収業務の入札情報が掲載されています。ただし、入札・業務の掲載は回収完了の発表ではありません。Green Bootsについては、この記事の基準日である2026年9月時点でも、回収計画や調達情報と、実際の回収完了を区別して扱う必要があります。
なぜエベレストの遺体は回収されないのか
遺体が残されているからといって、救助者が放置しているとは限りません。多くの場合、回収に向かう人が生きて戻れる可能性と、遺体を搬送する意義を比較しなければならないほど、作業条件が厳しいためです。
8,000mを超えるデスゾーンで作業する必要がある
エベレストの上部には、一般に標高8,000mを超える「デスゾーン」と呼ばれる範囲があります。空気中の酸素が少なく、長時間の滞在や重い荷物を持った作業は、登頂を目指すだけでも大きな負担になります。遺体回収では、通常の下山よりも人員・時間・判断力が必要です。
ヘリコプターでその場から運べない
高所の急斜面や稜線には、ヘリコプターが安全に着陸できる場所がありません。APの報道でも、デスゾーンからの回収は経験のあるシェルパや高所登山者が徒歩で下ろす必要があり、低酸素、悪天候、雪崩の危険があると説明されています。
凍結した遺体を急斜面で動かす難しさがある
遺体は雪や氷に固定され、体勢も動かしやすいとは限りません。急な岩場や氷壁でロープを使いながら少しずつ下ろす作業になり、搬送する人自身が滑落する危険があります。遺体を見つけても、その場から安全なキャンプまで移動できるとは限らないのです。
天候と地形が変わり、同じ場所へ戻れるとは限らない
強風、降雪、雪崩、氷河や雪面の変化によって、目印だった場所が覆われたり、遺体が移動したりすることがあります。登山シーズンの短い天候の窓に、回収隊が許可を得て高所へ入り、下山できる条件が揃わなければ作業は延期されます。
費用・許可・遺族の意向を含めて判断される
回収には高所に慣れた人員、酸素、ロープや搬送装備、食料、保険、許可などが必要です。北側はチベット側の管理や中国側の許可が関係し、南側もネパール側の行政・登山隊との調整が必要になります。費用だけでなく、遺族の希望、本人の意思、作業者の安全、遺体をどのように弔うかも判断材料になります。
回収されるケースもある:近年の清掃活動と歴史的発見
エベレストの遺体がすべて回収不可能というわけではありません。場所、状態、天候、必要な人員、行政の計画が揃えば、清掃活動や専門の捜索で回収・発見される例があります。
ネパール軍は2024年の「Mountain Clean-Up Campaign」で、エベレスト地域から2体を回収し、トリブバン大学教育病院の法医学研究所へ引き渡したと発表しました。これは、遺体回収が環境保全の活動と同時に計画される場合があることを示す事例です。ただし、活動が対象としたのはエベレスト、ローツェ、ヌプツェ周辺であり、山上の遺体を一度にすべて回収したわけではありません。
また、1924年に行方不明になったGeorge Malloryの遺体は、1999年の捜索隊によって発見されました。PBS NOVAの記録が示すように、長い年月の後に発見される例もありますが、これは捜索で見つかる条件が整ったケースです。回収事例があることから、他の遺体も同じ方法で安全に運べると考えることはできません。
一覧を見るときの注意点:確認できることと推測を分ける
エベレストの遺体情報は、ニュース記事、登山記録、隊員の証言、写真、後年の行政資料が混在しています。次の3点を分けて確認すると、誤った一覧を作りにくくなります。
- 名前と呼び名を分ける:Green Bootsのような通称は、身元が公式に確認された名前とは限りません。古い推定と新しい公的資料が違う場合は、両方の経緯を示します。
- 死亡記録と遺体の現在地を分ける:Himalayan Databaseで死亡記録が確認できても、遺体が同じ場所に残っているとは限りません。回収、埋没、雪崩、風による移動の可能性があります。
- 写真や位置情報の更新日を見る:数年前の写真を現在の状態として紹介せず、遺体の画像を興味本位で拡散しないことも重要です。遭難者と遺族への配慮を優先してください。
特に「エベレストには何体の遺体があるのか」という数字は、死亡者数、発見済みの遺体数、身元不明者、他の山を含む清掃活動の回収数を混ぜると簡単にずれます。記事や動画の数字を見たら、対象範囲と集計時点を確認しましょう。
まとめ:エベレストの遺体一覧は固定情報ではない
エベレストで知られる代表例には、Green Boots、Francys Arsentiev(Sleeping Beauty)、Hannelore Schmatzなどがあります。ただし、Green Bootsの身元のように、長く流通した説と新しい公的資料の記載が変わることもあります。
遺体が回収されない主な理由は、8,000mを超える低酸素、急斜面、凍結、雪崩や悪天候、ヘリコプターを使えない搬送、費用や許可の問題です。回収作業そのものが新たな遭難を生む危険があるため、回収しない判断が安全と尊厳を守る選択になる場合もあります。
エベレストの「遺体一覧」を確認するときは、死亡記録、通称、推定身元、回収・移動の履歴を分け、必ず資料の基準日を見てください。
参考にした主な資料
- The Himalayan Database Online
- Associated Press:India seeking to recover the body of an Everest climber known as ‘Green Boots’
- Government eProcurement System of India:Dorje Morup Green Boot recovery tender
- The Kathmandu Post:Nepal Army recovers two bodies during mountain clean-up campaign
- PBS NOVA:Mallory body discovery report
- American Alpine Journal 1985:Nepal expedition report
- BBC Future:The tragic story of Mt Everest’s most famous dead body

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